11.山科の別れ ―大石りく―
作詞:木下龍太郎
作曲:伊藤雪彦
実家(さと)へ戻れの 離縁状(さりじょう)は
吉良へ討入り 決めたこと
たとえ世間は 騙せても
大石殿の 妻ならば
判りますとも
うつけ芝居の 裏の裏
「旦那様 一日も早いご本懐(ほんかい)
遥か但馬(たじま)の空より
お祈り申しておりまする。
たとえこの身は離縁され
実家へ戻されましょうとも
りくは終生(しゅうせい) 赤穂藩国家老
大石内蔵助の妻にござりまする…。」
松の廊下の 刃傷が
変えた赤穂を 人の身を
ならぬ堪忍 したならと
女子(おなご)のそれは 世迷い言
まぶた閉じれば
浮かぶあの日の 天守閣
「これ 主税(ちから) そなたとは今日(こんにち)限り
母でもなければ
子でもない。なれど
りくと言う縁なき女子が
いつでもそなたの身を
案じていることだけは
何卒(なにとぞ) 何卒
心の隅に止めておいてくだされ。
のう 主税殿。」
もしもこの身が 男なら
名前連ねた 連判状(れんばんじょう)
ここで他人に なろうとも
心は置いて 参ります
京都 山科(やましな)
背(せな)にみれんの 春時雨(はるしぐれ)
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